2018年6月24日日曜日

【書評】投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識




金融資産の価格はわかりにくい。たとえば、株を買いたい人が多ければ値段が上がるし、逆に売りたい人が多ければ値段が下がる。この上下の不安定な動きが株式のチャートとして表れる。

資産の価格がどこまで上がるか、下がるかはわからないが、長期的にはある妥当な水準に落ち着くことになる。その水準を求めるのがファンダメンタル分析である。妥当な価値よりも、価格が低い時に購入し、妥当な水準を上回った時に売却する。これが、投資の要点であろう。

しかし、これだけでは平均より高いパフォーマンスを長期的に上げることは難しい。それは、そのリターンを得るために、リスクをどれほど取ったのかという視点が欠けているからである。

『投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識』は、ハワード・マークスというファンドの共同創業者によって書かれた顧客向けのメモをまとめたものである。ファンダメンタルの視点に基づいて、リーマンショック前後の市場を見つめてきた投資家の思考をまとめた好著だ。


その中で繰り返し述べられているのが、リスク管理の大切さである。当然のことながら、大きいリターンを得るためには、大きいリスクを取る必要がある。

しかし、景気が過熱してくるとリターンとリスクのつり合いが取れている金融資産の価格が高騰し、投資した金額に対してリターンが減少してくる。すると、いままでと同水準のリターンを得るためには、よりリスクが高い投資へ資金が流れていくというサイクルが生じる。

こうして投資家は、今までと同じリターンを得るために、意識せずに高いリスクをとっていくこととなる。景気がひとたび悪化に転じると、いままで知らず知らずに積み重ねてきたリスクが顕在化する。そのとき、大多数の投資家はこう思うのだ。こんなはずではなかった、と。

このような理由から、リターンのみを追求する投資家は、景気後退期に大きな損失を被ることで長期的なパフォーマンスを低下させることになる。長期的に良いパフォーマンスをあげるには、リターンを追及するだけではなく、リスク面も意識をせざるを得ないのだ。

したがって、投資家としてのスキルの有無は、景気サイクルの一部だけをとって判断することはできない。最低でも景気循環を一度そのサイクルを経験する必要がある。

スキルがある投資家は、リターンとリスクのどちらかに重点を置くかで、二つのタイプに分類される。一つ目のタイプは、リターンに重きを置くアクティブ投資型だ。景気がいい時に平均を上回るパフォーマンスを発揮し、景気が悪い時は並みの損失に抑える。もう一つのタイプは、リスクに重きを置くディフェンシブ投資型である。景気がいい時は、平均のパフォーマンスを得て、景気が悪い時は平均のパフォーマンスを上回る。このように、リスクとリターンは投資家のスキルの両輪なのだ。

今年2018年は、リーマンショックから10年の節目となる。この景気拡大の間多くのカリスマ個人投資家が生まれてきた。しかし、いまだに景気循環を体験していない投資家がほとんどだろう。次の不景気が来た時に、彼らが本当に投資家として高いスキルを持っているのか、それともただ単に波に乗っただけなのか、その真価が問われることとなる。

次の景気減速に備えて、この本を読んでリスクを意識しておくと役に立つであろう。天災と同じく暴落はいつやってくるかわからない。だが、いつかは必ずやってくるのだから。


※当ブログに掲載されている内容は、個人的見解に基づくものであり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。当ブログの記事に基づいて投資を行い損失が発生した場合にも当方は一切の責任を負いません。投資はご自身の判断と責任で行って頂きますよう、お願い申し上げます。

0 件のコメント:

コメントを投稿